誰かの願いが叶うころ《聖戦後》 -4- (R18)
「シュラ・・・」
獣のような、荒い息。
「・・・シュラ・・・っ」
アイオロスの声が、耳元でひっきりなしに名前を呼ぶ。
突き上げられて、耐え切れなくて背中に手を回し、縋る場所を求める。
指が肩甲骨に触れた。
・・・・・・・・・・・翼。
誰かそんなことを書いていた詩人がいなかったか?
肩甲骨は、翼の名残だと。
いや・・・・・・
誰か、じゃない、自分だ。
子供の頃、この男の背中には本当に翼があるのかも知れないと思っていたのだ。
まだ子供の自分と違って、見事な体躯の、盛り上がった背中の骨。
あれは翼で、そして、その広げた翼で・・・・・・・
「・・・・・・ぅ、ぁ・・・・っ、」
いきなり乱暴に突き上げられて、思考が途切れる。
霞んだ視界に、アイオロスの泣きそうな表情が映った。
「何、考えてる・・・?」
「・・・・・・っ、」
話しかけてくるくせに、動きは止まない。
「・・・・・こんな俺を軽蔑してる・・・?」
「何、を、・・・今更・・・・・っ、」
昼となく夜となく、お互い獣と化しているというのに。
「・・・お前が子供の頃、俺はご立派なことばっかり言ってたのにさ・・・」
「・・・・・・、」
「・・・実際は、こんな男で、」
「ぁ、・・・」
揺すられて、声が上った。
決して出すまいと唇を噛み締めている、受け身の声。
「・・・でも、たまんない。止まんない。」
その、声に誘われて、より奥まで侵入してくる楔。
自分でどう言い訳しようとも、更に受け入れようと悦楽に蠢く自分の内。
「・・・俺は自分で止められないから、耐えられなくなったら殺していいよ。」
「な・・・、」
「だから・・・、」
「・・・・・・・・・・・ぁっ、」
子供のあの、広げた翼で、包み込まれたいと思った。
それから。
この、腕で・・・・・・
「・・・・・ごめん」
「・・・・・・・・な、に・・・・っが」
「・・・ほんとは子供の頃から、こうしたかったのかも知れない・・・」
何を言う。
その、子供の頃。
この男は・・・・・・・・・
「・・・その顔されると、ほんと我慢できない」
「・・・・・・・・っ、」
「昔から、その顔されると、頭撫でてやりたいとか、抱きしめてやりたいとか思ったんだけど・・・」
意識を飛ばそうとしているのか、ずっと伏せ目がちだったシュラが。
その言葉で、目を開いた。
視線がぶつかる。
それと、否応無しに視界に入ってくる、自分の足。
広げられて、抱え上げられた―――・・・・・・・
思わずアイオロスを突き飛ばして身を起こしたい衝動に駆られたが。
その前にアイオロスの無骨な手が、頬に伸びてきて。
「・・・もしかして、あれって、最初っから・・・・」
手と、言葉に気をとられた瞬間、思い切り突き上げてこられて、体が悲鳴を上げた。
ひょっとしたら、実際に声も上げてしまったかも知れない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・女のように。
だが、それが何だと言うのだ?
声を上げることなど、ただの衝動的な行動に過ぎない。
自分は―――・・・・・・・・・・・・
子供の目に眩しく映った、翼ある人。
あの翼を汚したのは、ずっとサガだと思っていた。
だが、もしかして。
あの、白い翼を汚したのは―――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2008/8/11
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