誰かの願いが叶うころ《聖戦中》-2- (R18)



教皇宮での責め苦からやっと解放され、シュラが自宮に戻ったのは夜半をかなり過ぎた頃だった。
以前、日が高くなりかけてから双魚宮を通ってアフロディーテに不審の目を向けられてから、なるべく暗いうちに戻るようにしているからだ。
やっと自分のテリトリーに辿りつき、息を吐き出して扉を開けると。

「よう。遅かったじゃねえかよ。」

勝手に入り込んだ友人が、勝手に酒を飲んでいた。

「・・・他人の宮で何をしている。」

あからさまに不機嫌な表情で睨みつけたが。

「いいじゃねーかよ。ちっと聞いてほしい話があったからよ。」

もちろん相手は―いつものように―動じない。

「・・・悪いが明日にしてくれ。疲れてるんだ。」
「まあそう言うなや。俺とおめぇの仲じゃねえかよ。」
「どんな仲だ?俺が一方的に迷惑かけられる仲か?」
「つっかかるじゃねえか。・・・ちっとだけだからよ、酒につきあえや。」

何を言っても聞く耳もたないようだったので。

「・・・さっさと飲んで、早めに帰れよ。」

シュラはため息混じりにそう言って、しかたなくデスマスクの向かい側に腰を下ろした。

「で、話は何だ?」
いきなり切り込んでくるシュラに。
「そう急がずに、まあ飲めや。」
デスマスクは用意してあったらしいグラスに、明らかにシュラのものであるボトルから酒を注ぐ。


そして・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「・・・・・・・・・貴様・・・何のつもりだ・・・?」

空になったグラスを握り締めて苦しげな息で言葉を吐き出しながら、シュラはデスマスクを睨みつけた。

「なーに、ちっとばかしつきあってもらおーと思ってな。」
「何・・・・?」

怪訝そうに問いかけると、デスマスクはいきなり立ち上がり、ずかずかと近づいてきて。
睨みつけるシュラの肩を掴んで、座っていたソファに押し付けた。

「・・・何の冗談だ!」

もちろん押し返そうとするが、ほとんど体に力が入らない。

「き、さま・・・っ」

本気の怒りを込めて、聖剣を繰り出そうと右手を上げたが。
デスマスクの方も、シュラには理由のわからない、怒りに燃えた目で見下ろしてくる。

「・・・いいじゃねーかよ。それとも何か?権力者とはできても同僚じゃごめんだっつーのかよ。」

「・・・・・貴様・・・・!」

言葉の意味に気づき絶句したシュラを、更に抑えつけたデスマスクは。

「・・・・・いいか、こんなこたお遊びだ。俺もおめぇも生物学的に言やぁ欲求がビークの年齢なんだからよ。」

相変わらず怒りを宿した目で、更に言葉を続け。

「・・・突然ムラムラきちまったら、手近な後くされのねぇ相手と解消すんのが一番だよな。」

言いながら、頭をソファに押し付けて唇を塞ぐ。

シュラはパニックを起こしたのと、体の自由が効かないのとで満足な抵抗ができなかった。
それに、同時に気づいてもいたからだ。

・・・・・・・・・・・この友人が何を考えて、こういう行動に出るのかに。




それは、つい先程まで強いられていたのと同じ行為だとは、到底信じられないほどだった。
教皇宮での苦痛の連続と違い、体は脳に快楽だけを伝えてくる。
ただ自分に快楽を与えることのみを目的として、手や舌が絡みつき。
正体不明の薬剤を塗られた指が、しつこいくらいに中を解す。
苦痛に声を上げることにはそれ程羞恥心を感じないが、快楽に声を上げるのは死ぬほどの恥辱だ。
そう思って噛み締めた唇が赤く滲む。

「・・・・おめぇはなあ、何でもそやって考えすぎんだよ。」

その赤を舌で舐めて、デスマスクが吐き捨てた。

「プレイなんだからな。・・・相手より気持ち良くなったほうが・・・、」

「ぅ、あ・・・・・、」

「・・・・・勝ち、なんだよ!」

言葉とは裏腹に、異物はゆっくりと侵入してきて。
一瞬だけの苦痛の後、今まで味わったこともないような快楽が押し寄せた。

「・・・・・・・・・っ、ぅ、ぁ・・・っ」

もう、大声をださないようにするのがやっとで。
自分の方だけが快楽に振り回されているような気がして、何となく腹が立ったシュラは、相手の手や肩や背中に思い切り傷を負わせたやった。
決して快感に突き動かされた行動ではない!
・・・・・・と後で自分に言い聞かせたが。

・・・・・・・・・・これも後で気づいたことだが、この時点で体の自由は効くようになっていたらしい。


*


「・・・一体何を考えてるんだお前は!」

息が整ってきて、正気が戻ってきた途端、シュラはデスマスクを怒鳴りつけたが。

「そうとんがるなよ。素直に気持ちよかっただろが。」

怒鳴られたデスマスクは、さっきまでとは全く違う、いつものにやにや笑いでこともなげに返してきた後。

「・・・・・・・・・得体の知れねぇ奴相手よりゃ、はるかによ。」

真面目な顔に戻って続けた。

「・・・・・・アフロディーテに一言でも言ったら殺すぞ。」

シュラの方も怒りを抑えた低い声で返す。

「・・・誰が言うかよ。おめぇだけにかっこつけさせるなんざごめんだぜ。」





その会話の後、しばらく二人で目を逸らさずに睨み合っていたが、再び口を切ったのはデスマスクだった。

「第一、17や18の男なんて発情期の動物とそう変わるかよ。・・・こんなことは・・・」
「・・・ただの欲求解消だ。」

シュラが続きを返すと、デスマスクはいつもの表情に戻り。

「わかりゃいいんだ、わかりゃよ。・・・よし、んじゃ交替だな!」

シュラの背中をばんばんと叩きながらさらっと言った。

「・・・・・・・・・なに?」
「だから、こんだ交替してやるからよ。ちゃんと手順守れよ。」
「いらん!」
「そう遠慮するなや。」
「遠慮なんかしとらん!心の底からいらん!」
「おいおい、そりゃ卑怯だぜ?」
「何がだ!」
「だってよ、さっきおめぇの方が全然気持ちよさそうだったじゃねえか。勝ち逃げは卑怯だぜ?」
「冗談じゃない!」

押し問答が続いたが。

「まーだわかってねぇようだな。こんなこた全部・・・」

低い声で指をつきつけてくるデスマスクに。

「・・・わかった。お遊びだ。」

両手を上げた降参のポーズで、あきらめたようにシュラが返す。

*

そして。

「よし、決まりだな。・・・体中みみずばれにしてやるぜ。」
「望むところだ。・・・大声上げさせてやる。」





2007/7/17

+++back+++

↑page top