誰かの願いが叶うころ《聖戦中》-1-(R18)



「では、失礼致します。」
「うむ、遅くまでご苦労だった。」

その日の報告を終え、シュラは一礼して執務室から退出しようとした。
が、

「・・・・カプリコーン。」
「はい。」

呼び止められて振り向く。
そして。

「ピスケスにくるように伝えよ。」

次の言葉で凍りついた。
鳩尾を氷が伝う。

「・・・教皇!」

「何だ?」

知らず、教皇の椅子の前に縋るような形で膝まづいた。

「・・・・・どうしてアフロディーテなのです!こう言っては何ですが、他の黄金聖闘士と違って彼は激務もこなしています!」

「他に適任がおらんのでな。」
必死のシュラを面白そうに眺めてから、権力者は事も無げに言い放った。
「そんなことはないでしょう!」

「言っておくが、私はバルゴなど呼ばんぞ。リスクが高すぎるわ。アリエスもだ。その日のうちに毒薬でも飲まされそうだからな。・・・そんなやっかいな玩具はいらん。」

シュラは、言う前に先回りされ、口を開きかけたまま固まっている。

「スコーピオンやレオもごめんだ。バルゴとアリエスが毒薬なら、あの二人は爆薬だ。単細胞はその場の怒りで何をするかわからんからな。」

確かに言われるとおりなので、シュラは次の言葉を探していた。
と。

「ピスケスを呼べ。」

これが決定だ、というように端的に命令され。

「教皇!非礼を承知でお願い致します、それだけは!」

シュラはなりふり構わず相手の長衣の裾を掴んだ。
しばらく見詰め合う形になった後、権力者は喉の奥でくくっ、と笑う。

「何だ。お前とピスケスはそういう仲なのか?」
「!そういうのではありません!ただ・・・、」
「ただ、何だ。麗しい友情か?ええ?」
目の前の権力者がそういう甘ったるい言葉が大嫌いなのを思い出して、シュラは言葉に詰まった。
「・・・・・なら、その麗しい友情でお前が変わるか?」
「な・・・・・、」
絶句するシュラの顎に、靴のつま先がかかる。
「・・・私はそれでもかまわんぞ?見た目はあちらのほうが適役だが、いたぶるにはお前の方が楽しそうだからな。」
お遊びに興じているそのものの顔で、権力者はシュラを見下ろし。
「お前に任せる。好きに選ぶが良い。」
薄笑いを浮かべて、決定を投げてきた。

あれ以来、何かが狂ってしまっていることがわかっている世界で。
それを正す術も見つからないまま、自分も他人も騙してきた。

だが。
それでも、絶対に穢したくないものがある。
この、血だらけの手を、それでも正当化できる、自分が生きていくためのよすが。

「・・・・・・・どうするのだ?」

再度の問いに。
シュラは自分の顎にかかっている靴に唇を押し付けて言った。

「・・・・・仰せの通りに。」

「ふ、全く麗しいことよの。」
権力者は立ち上がると、そういい捨てて奥へと足を運び。
「来い。」
振り返って短く命令を発した。





*





結界、というにはあまりにも強大な闇の小宇宙が支配する部屋だった。

「何をしている。・・・真面目にやらんか。」

自分の足の間に沈みこむ頭を抑えつけて、権力者が叱責する。

「お前も女にやらせたことがあるだろうが。」

わざと屈辱的な台詞を浴びせながら、面白そうに笑った。

「お前が私を楽しませることができなければ、次はピスケスを呼ぶぞ。」

ぴく、とシュラの方が微妙に動いた。

「・・・・・やれば出来るではないか。」

しばらく足を投げ出して、屈辱的な行為を強いられている相手を眺めて楽しんでいたが。
それにも飽きてきて、いきなり髪を鷲つかみにして顔を上げさせた。

「・・・・・・・っ、」
「・・・呆れるな。自ら進んでこんなことをする程ピスケスが大事か。」

「・・・、」
シュラの表情が変わったことで満足したのか、頭を掴んだまま寝台に押さえつけ。
「ぅ、あ・・・・・」
慣らしも何もなくいきなり引き裂いた。
「男は初めてか。」
わざと怒りを煽るような台詞を口にし、顎を掴んで顔を覗き込む。
「ふん、女の気持ちがわかってよかろう。」
シュラの目に炎が宿ったのを見届けて、権力者は腰を動かし始めた。
「・・・・・・・・・ぐ、」
「別に声を上げるなとは言っておらんぞ。」
いちいち怒りを煽り、屈辱に表情が変わるのを楽しみ。
相手の快楽など慮ることもなく、ただ乱暴に突き上げる。

「アクエリアスは情欲に流されまいとするのを欲望に奈落に引きずり込んでやるのが愉しかったのだが・・・」
言いながら、また顔を覗き込み。
「・・・お前は屈辱に耐えている姿が見ものだな。」
「っ!」
いきなり熱を掴む。
「まあ、きっちり反応はしているようだが。」
目に怒りが灯ったのを眺め。
「女役も気持ちがいいか。」
追い討ちをかけておいて、突き上げる。

シュラは概ね苦痛と、屈辱と、微かな快楽に振り回されて気が遠のいていく中。
アフロディーテにこんなことはさせられないと改めて思い、そこで意識が途切れた。




*




目を開ける時、夢か現かわからなくなっているくらいの時間が経っていることを期待していたのだが。
実際はそうもいかず、気を失っていたのはほとんど一瞬だったらしい。
まだ膝の内側を伝う相手の体液が濡れている。
現実を認識して、あまりの屈辱に顔が火照った。

だが。
こんな屈辱に耐えたのだ。

目的を完遂しなければならない。

シュラは面白そうに自分を見ている相手の目を見据えて言った。

「・・・約束してください。」
「何をだ?」
「私が召喚に応じている限り、アフロディーテに手を出さないと。」
「わかっている。」

返事とは裏腹に、権力者が喉の奥で笑ったことに不安になったシュラは、予防線を張ろうと。
「私が任務で留守の間もです。」
相手を見据えて言葉を続けた。

「わかっておるとも。お前が・・・」

言葉が途中で途切れて、手が伸びてきて。
返事の内容を聞くことに集中していたシュラは反応が遅れて、寝台に押し付けられた。

そして。
「うあ・・・・・・・・っ」
足を掴まれて内側に、圧倒的な質量が侵入してくる。
「・・・お前がこうして私を楽しませている限りはな。」
「・・・・く、」
「ふ、さっきよりは具合がよいではないか。」
わざと怒りを煽られているのがわかっていても、つい顔に出てしまい。
「せいぜい精進することだ。麗しい友情を守るためにな。」
そして、追い討ちをかけられる。




あれ以来、何かが狂っている。
一度はずれた歯車は元に戻らず。
さらに破滅に向かって進んでいくような気さえする。

それでも、ただ―――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





*





外に出た時、太陽はもう高かった。

空を見上げて、視線を落とすと、目の前に双魚宮。
シュラは自分の宮が双魚宮より下である事実を呪った。

「おや、今帰りかい?」

予想通りアフロディーテが声をかけてくる。

「ああ。」
「全く、人使い荒いよねえ。」
「そうだな。」

愛想なく短く答えて去っていくシュラに、アフロディーテは首を傾げる。
でもまあ元々口数の多いほうではないし、徹夜任務で疲れているのだろう、と思った。

が。
ふと。

ついこの間まで、同じような時間に同じような状態でここを通り抜けていった人物のことを思い出す。
一瞬胸騒ぎがして、教皇宮を仰ぎ見たが。

「まさかね。」

と呟く。

シュラまでがそんな目に遭うくらいなら、その前に自分やシャカあたりが呼ばれているだろう。
何せ、カミュの後釜なんだから。





2007/6/28

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