太陽の王子と月の妖獣



ミロと言い争いをしてしまったカミュは、深夜何となく教皇宮へ向う回廊にいた。
というのも、言い争いの内容というのが教皇についてだったからだ。
同じ人物のはずなのだが、自分達が子供だった頃の教皇と、今では別人のようだという話から始まって。
ミロは昔の
「それくらい自分で考えてなんとかせい小僧ども―――っ!!」
と、子供相手にすぐ切れた教皇の方が教皇らしくてよかったと言った。
今の教皇は、何かしら得体が知れないと。
カミュは、以前のわめき散らしていた教皇より、現在の穏やかな教皇の方がいいと言った。
どちらもそれ程強固な意見というわけてはなかったのだが。
ミロはあまり深く考えずに喋ったり行動したりする。
だが、結果的に見てカミュがよく考えて行ったことより、ミロが野性の勘で動いたことのほうが功を奏することが遥かに多い。
口には出さないが、カミュは結構それにコンプレックスを抱いていたのだ。
だからつい、不必要にエキサイトしてしまった。
それでもいつもなら譲ってくれるはずのミロが、今日は頑として意見を変えなかったので。
気まずい雰囲気のまま別れてしまったのだった。


回廊で月明かりを浴びながら軽くため息をついたカミュは、ふと後ろに気配を感じて振り向いた。
「教皇。」
驚いて、思わずひざまづく。
「申し訳ありません、無断で回廊に立ち入ったりして。」
「いや、別によい。普段から閉鎖的に過ぎると思っていたくらいなのでな。」
「しかし・・・、」
「よいから、顔を上げなさい。」
穏やかな物言いに安心したカミュが顔を上げた瞬間。
場の空気が変わったような気がした。
気のせいか、と思いながら、手を引かれて立ち上がる。
「中で少し話をしないかね。」
言われて驚く。
ここ何年も、教皇はデスマスク、シュラ、アフロディーテの3人以外をあまり寄せ付けなかったのに。
ミロがあれやこれや言うのも、そのあたりの問題もあるのだ。
「私も、皆が考えていることを知りたいのだ。」
あまりの意外な申し出にカミュは躊躇したが、ふと、ミロより自分の意見が正しいこともあるのだと証明してみたくなって。
迂闊にも誘われるまま奥の部屋に入っていった。


案内された場所は、ほの灯りに満たされた広い部屋で。
接見に利用される部屋というより、まるで私室のようだな、と思いながらカミュはソファに座った。
あまり失礼にならない程度に、と留意しながらもあちこちを見回していると。
「それでお前は、スコーピオンとはもう寝たのか?」
とんでもない言葉が聞こえて、振り向いたそこにいた人物は。


「・・・・・・・・・・・サガ・・・・・?」


顔を見た瞬間、思わず名前を呼んでしまった。
もう何年も会ったことのない、優しい年長の黄金聖闘士。
しかし、彼がさっきのような言葉を吐くはずがない。
カミュが驚愕の表情のまま固まっていると、その人物はゆっくりと近づいてきて。
顎に指をかけてきた。
「久しぶりだな、アクエリアス。」
サガは自分をアクエリアスなどとは呼ばない。
しかし、この顔は・・・・・・・・・・・・・・・・・
「再会を喜んでくれないのか?」
お前は誰だ、と言おうとした次の瞬間。
いきなり唇を塞がれた。


体を抱きすくめられて、ぬめった感触のものが口の中に入ってきて。
背筋を悪寒が走って、逃れようともがくが適わない。
その次には片手が腰から下に滑って、双丘を掴まれた。
「・・・・・・・・・、」
さすがに突き飛ばそうと肩に手をやると、やっと唇が離れて。
「何故だ?お前は私にこうして欲しかったのではないのか?」
言われて、首に手がかかる。
「な、」
その手に力が篭って、指が食い込む。
咳き込んでいると、体が宙に浮いて。
次に落とされた場所は、天蓋つきの寝台だった。
慌てて体を起こしたところを、上から押さえつけられて圧し掛かられて。
「いつも物欲しそうな目で見上げてきていたぞ?」


乾いた音があたりに響いた。


あまりの言い草に目を見開いて固まっているうちに、シャツを引き裂かれて。
次の乾いた音は、頬を張り飛ばされる音だった。
体格のいい体を乗せられて寝台に固定され、頭を鷲づかみにされて、唇にぬめった感触。
口腔内を隈なく蠢いた舌は、唇を嘗め回した後、喉に移る。
その間にも手は体中を這い回り、服を引き裂いて白い肌を露にしていく。
くくっ、と笑い声がして、伸びた爪が白い胸に赤い線を引いた。
次にはその傷に、舌が這い回る。
「は、なせ・・・・っ、」
鳩尾に蹴りを入れようとカミュは足を上げたが、足首を掴まれて足の間に体を滑り込まされてしまった。
「何を抵抗する?こうして欲しかったのだろうに。」
「だ、れが・・・・・っ、・・・・・・・・っ、」
反論しようとしたが、熱に指が絡んで言葉は途切れた。
押さえつけてくる力とは裏腹に、熱に触れた指はじりじりとした動きで、覚えの無い感覚を呼び覚ます。
「・・・・・・・・・・っ、」
身を捩ると、含み笑いが聞こえた。
「・・・驚きだな。本当に何も知らないとは。」
熱から手を放すと、膝の内側を撫で上げて、胸と同じように赤い糸を引いた。
「お前がこんなにもの欲しそうにしているのに、スコーピオンは何もしてくれなったのか?」
ミロの話が出て、カッ、と頬に血が上る。
誰がこんな。
足をばたつかせたところに、顔が近づいて。
いきなり熱に、濡れた感触。
それが相手の舌だと気づいて慌てて抵抗しようとしたが、力で適わないのと、口腔内に含まれて弄られる感触に力が入らない。
「ぁ、」
下から焦らすように舐め上げられて、短い声が上った。
足首を掴まれて持ち上げられて、屈辱的な体勢でいることにも気が回らなくなってくる。
抵抗しようと相手の髪を掴んだはずなのに、いつの間にか縋るように頭を抱えてしまっていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・んっ、」
手はそこいらじゅうを撫で回し、揉みしだき、舌は熱に絡み付いてくる。
熱から期待するように蜜が溢れて、カミュは屈辱と羞恥で消えてしまいたいくらいだった。
だが、その気持ちとは裏腹に熱は解放を要求して口腔内で震えている。
とにかくこの状態から逃れたくて、だができることといえば相手の頭に縋って首を振ることくらいで。
今にも哀願の言葉を口にしようとした瞬間、舌の感触が遠のいた。
「ぁ・・・・・・・・・・・、」
唇が震えて、声にならない。
かつて憧れたサガと同じ顔をしたその男は、両足首を掴んで持ち上げ、笑いながら言った。
「お前のためにやめてやったのだぞ。」
そして。
「でないとこの後が辛かろうからな。」
面白そうに言葉を続けると、足首を掴んだ手を動かしてカミュをうつ伏せにする。
起き上がろうとする首根っこを押さえつけ、耳元で。
「望みを叶えてやろう。」
舌が双丘を這って、隙間を舐め上げ、入り口に辿りつく。
「・・・・・・・、」
誰も、自分も触れたことの無い場所に、他人の舌が入ってきて。
中を解しながら、少しづつ奥に侵入してくる。
悪寒ではないものが背筋を駆け上がって、カミュは自分への嫌悪感に吐き気がした。
だが、体は別のものに支配されている。
舌が卑猥な音を立てて中を弄る。
手はいやらしい動きで双丘を撫で回す。
そのまま後ろから回ってきた手が熱に触れた。
唾液ではないものでびしょ濡れになった熱は、その手を待っていたかのように震えてさらに濡れる。
カミュの目に涙が浮かんだのに気づいているのかいないのか、小さな笑い声の後指は後ろに回って、舌のと入れ替わりに中に捻じ込まれた。
「い、やぁ・・・・っ、」
足をばたつかせようとしてみたものの、さっぱり力が入らず。
抜き差しを繰り返す指と、その指に粘膜が絡みつく卑猥な音に脳を侵されながら。
わけのわからない感覚に支配されて、それでもこれは誰なのだろうという疑問が頭を掠める。


物欲しそうな顔で見上げてきたではないか。


確かに自分はあの人に憧れていた。
だが、それはこんな意味ではなかったはずだ。


お前がこんなにもの欲しそうにしているのに、スコーピオンは何もしてくれなったのか?


それは―――・・・・・・・・・・・・・・・


「ぁ、ぁあ・・・・・・・・・っっ」
指が増やされて、思考が途切れる。
奥まで指が届いて、脳が痺れて。
もう片方の手が熱を包み込んで、さらに神経が麻痺する。
少し思考が戻りそうになる度に、それを読んだかのように中の指が蠢いて。
「ふ、ぁ・・・・・っ」
堪え切れなくて声を上げた場所を、執拗に何度も責め立てられて視界に霞がかかった頃、突然全ての行動が止まった。
手からがくん、と力が抜けて、カミュは寝台に倒れこんだ。
その耳元に、突然懐かしい声。
「カミュ。」
驚いたカミュが肩越しに振り向いた時、一瞬だけかつて憧れた綺麗な顔が見えたのもつかの間、それは直後に別人の顔に変わって。
「ひ、ぁ・・・・っ」
次の瞬間、衝撃があった。
さっきまで指に弄られていた場所に、指とは比べ物にならないくらいの圧迫感がきて。
内壁を押し広げながら、中に侵入してくる。
「い、や・・・・・、い、やぁっ、」
圧倒的な異物感に吐き気をもよおしながらも、体は別の感覚も脳に訴えてくる。
カミュに根元まで自分を咥えこませると、その男は一旦行動を止めて、くくくと笑った。
「何も知らないにしては、嫌に素直に受け入れるではないか。」
揶揄の言葉が降ってきて。
とっさに何か言おうと口を開きかけたところに、両足を持ち上げられて。
「・・・それともそんなに欲しかったか。」
「ひ、ぁあっっ、あっ」
言うなり腰を動かされて、悲鳴が上る。
苦痛と快楽が交互にやってきて、何も考えられなくなってきた頃、放り出されていた熱に指が触れた。
「ぁ、ぁん・・・・・っ、」
無意識に甘い声が上って、嫌悪感に少し正気が戻ってきても、その度に乱暴に突き上げられて。
粘膜の擦れる音と、自分の熱が弄られる卑猥な音が耳に入ってきて、苦痛より快楽を呼び覚ます。
「ん・・・・っ、ぁ、」
拒否の言葉は、いつの間にか喘ぎ声にとって変わられていた。
相手が誰かということも頭になく、ただ快楽に振り回される。
「ぁん・・・・っ、あっ、」
自然と腰が高く上り、相手を奥まで受け入れやすい体勢になり。
解放を期待して、熱は震えた。


私にこうして欲しかったのだろう?


断じてこの男にではない。
だが―――・・・・・・・・・・・・


「ん、ぁっ、ぁあ・・・・・・っっ」
熱に絡み付いていた指が、いきなり追い上げてきて。
次には激しい突き上げが来て、綺麗に反ったカミュの喉からひときわ高い嬌声が漏れた。
誰ともわからない相手の欲望を自分の中に撒き散らされて、その嫌悪感と、どういうわけか嫌悪感に伴うあらがい難い快楽の中でカミュは気を失った。


次に気がついた時、最初に目に入ったのは憧れた人に似た、だが雰囲気は似ても似つかない男の邪悪な顔で。
夢ではなかったのかという失望の中、カミュは相手を睨みつけた。
「望みを叶えてやったのだから、感謝して欲しいものだがな。」
「・・・・・貴方は誰です?」
丁寧な言葉は、時に暴言よりも怒りを伝える。
「教皇だ。・・・とりあえず今はな。」
端的な答えが返ってきて。
「・・・そしてお前はその部下だ。そうだな?」
カミュはただ睨みかえす。
同時に手が双丘に伸びてきて撫で回してきたので、振り払ったが。
押さえつけられて、顔が近づいてきて。
「私は聖域を統べねばならん。そしてお前達はそれをサポートするのが使命だ。」
振り払った手は次に胸元に伸びてきて爪を立てて引いた。
「私の精神の平定のために、協力するのもそのうちだ。」
手をはたいて振り払いながら、
「誰が!」
と語気も荒く言い返したが、次の言葉でカミュは硬直した。



「お前が駄目なら、かわりにスコーピオンを召集するまでだ。」



「まさか・・・・・、」
声が震えた。
「まさかではないぞ。私は毎日激務で疲れているからな。これくらいの娯楽は必要だ。本来ピスケスあたりが適役だろうが、あれに手を出すとキャンサーとカプリコーンの両方から反感を買う。・・・あの二人は使い勝手がいいからな、そんなわけにいかん。」
手が伸びてきて。
顎を掴む。
「・・・それに、お前にとっても好都合だろう?」
硬直したまま言葉の意味がわからず、咀嚼していたが。
指が熱に触れて、カミュの顔が朱に染まる。


その後に続いた男の笑いは、どんな言葉よりも雄弁だった。




2006/9/14






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