太陽の王と月の妖獣 -2- (R18)
「来てくれたのかい、カミュ!」
側近に誘導されて教皇の自室に赴いたカミュは、側近の気配が消えるなり歓喜の出迎えを受けた。
自室で楽な格好をしているサガは、遠い記憶の中の優しいサガを思い起こさせて、カミュは少し切なさを覚えた。
「カミュ・・・・カミュ・・」
走り寄ってきたサガはカミュの前に膝まづき、細い体を抱きしめた。
・・・・・・・・・・・・・・・・まるで、縋るように。
「・・・・・カミュがこうして会いに来てくれるから、私はここに存在できるんだよ。」
カミュの胸に埋められた顔から、くぐもった声が聞こえる。
もう成人の、しかも自分が誰より慕っていた、立派な兄のような人が・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・まだ10をやっと越したばかりの、心弱い―と自分でも自覚している―自分に縋っている。
カミュは軽い絶望を感じて、眩暈を起こした。
「・・・・・いつものように、私を赦しておくれ・・・・・・・・」
身体を少し離したサガが、カミュを促す。
カミュは諦めの影を色濃く映す表情で、自分の長衣の紐を解いた。
それから、一枚一枚と自分の手で布を床に落としていく。
サガがいつも、カミュの意思で受け入れてほしいと懇願してくるからだ。
・・・・・・・・・・最初のいきさつを考えれば、失笑を免れない話なのだが。
サガは、いつも、真剣なのだ。
*
「・・・・・・・・・カミュ」
唇が塞がれて、生暖かい蛭のような舌が侵入してくる。
口の中を散々蹂躙して、それから。
子供の、かつて穢れなかった身体を這いずり回る。
いつもは、これで本能を引きずり出されて、何も考えられなくなるのだが。
今日は、少し、違っていた。
昼間、ミロとした会話を思い出していたからだ。
―――なんか俺たちが子供だったころと、今の教皇って別人みたいだよなあ。
どきりとしながら、カミュはミロを振り返った。
―――俺、前の方が好きだったなー。
―――どうしてだ?前はお前、しょっちゅう叱り飛ばされていたではないか。
―――うーん。でもさー、次の時には俺も教皇もぜーんぶ忘れてたもん。
―――・・・・・・・・・?
―――今は怒られないのはいいんだけどさー・・・・・・・・・・やっぱ、何か・・・・
ミロはしばらく合致する言葉を考えていたようだが。
そのうち考えるのを諦めたらしく、顔を上げて、こう言った。
―――やっぱ、なんか、やだ。
たいして考えもしないくせに、ミロはいつも正しい。
誰もあの光を、こんなことの対象には見ないだろう。
それにひきかえ、自分は・・・・・・・・・・・・・・
カミュが完全に自分の考えの中に浸り始めた時だった。
相手が何の反応も示さないのを気にしたサガが、突然カミュの手をひいてうつ伏せにした。
そのまま押さえつけられて、何なのかとカミュが肩越しに振り返ると、サガは何か瓶のようなものを手にしていた。
その瓶から滴り落ちたねっとりした液体が、サガの指を濡らす。
「ぁ・・・・・・っっ」
次の瞬間。
内側に滑ったものが滑り込む感触に、カミュは声を上げた。
いやらしい粘着音を立てながら、それは内を動き回った。
・・・・・・・・・・・・・サガの指。
かつていつも、いい子だと自分の頭を撫でてくれたはずの・・・・・・・・・
時々指が抜かれて、液体が足される。
指が増えて、内側の粘膜が震える。
いつもより更に、怖気のするような強い感覚が引きずり出されて。
耐え切れなくなったカミュの腰が、自然に上る。
「・・・・・・・・・・・・こうすると気持ちがいいだろう?」
耳元で声がして、必死に首を振るが。
「・・・・・ごまかしても駄目だよ。私は知ってるんだから。」
続く言葉は、容赦がなく。
指の方も容赦がなかった。
「・・・・・・・っ、ぁ、ん・・・・・・・・・っっ」
頭が霞み始めて、何も考えられなくなってきた頃。
「・・・この瓶はね、アイオロスが持ってきたんだよ。」
突然意外な名前が聞こえて、カミュははっとした。
「・・・そして、今私がしているように、私に塗ったんだよ。・・・その方が私が楽だからねって。」
「・・・・・・確かにそうだったけど、でもねぇ、カミュ・・・・・・・」
「私は、男だからね。」
「あ、ぅあ・・・・・・・・っぁ」
肩越しに見たサガは、少し微笑っているようにも見え。
その意味を探ろうとしたが、更に指が増やされて悲鳴が上る。
「・・・・・そして、あいつは私の内側に潜んで、ずっと見ていたんだよ・・・・」
「私がそんな風に腰を上げて悦ぶ様を・・・・・・」
「・・・そしてある日突然表に現れて、アイオロスを殺したんだ・・・・」
「ああ、それとも・・・・・・・」
「・・・・・・・あれも、やっぱり、私なのかな。」
独白が、自問に変わって。
「・・・・・・・・・ふ、」
それと同時に、わざと刺激を残して、指の質量が去った。
「カミュ・・・・・・・・・」
大きな体格の影が落ちる。
「・・・・・・・私を受け入れてくれるかい?」
「・・・・・・・っ、」
嫌悪感と、押さえ切れない本能の鬩ぎあい。
たとえ嫌悪感の方が勝利したところで、その後のサガの懇願には抗えない。
「カミュ・・・」
「・・・・・っ」
熱があてがわれて、身体が竦む。
だが。
「・・・・・私を赦してくれるかい?」
カミュがうなづくまで、繰り返される懇願が、拒否を許さない。
「・・・・・・・・・っ、」
微かに首を振るなり、衝撃がやってくる。
香油か何かでしつこく解された内側は、熱をあっさり飲み込んだ。
「・・・・・・・・・あ、・・・っ」
ずるずると熱が侵入してきて、押し広げられる感覚。
だが、いつもよりずっと苦痛が無く。
・・・・・・・・・・いつもよりも・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・ぁ、んっ、ぁ、あ・・・・・・っっ」
声が抑えられない。
信じられない、眩暈のするような快楽。
「ふ、ぁ・・・・ん・・・・んっ」
緩やかな動きに焦れて、自分から揺れていることに気づいてカミュは慌てた。
「カミュ・・・・・・・」
「・・・・・・・・、」
「・・・そんなに気持ちいい?」
「・・・・・や、」
「そうだろうね。・・・・私もそうだったから。」
「ぃ・・やっ・・・・」
「私もそう言ったよ。・・・でもね・・・・」
「・・・・・あっ、」
回り込んできた手が、熱を包む。
その指の隙間から、滴る落ちる蜜。
羞恥心に頬が火照る。
「・・・大丈夫だよ、あの時私もこうなってたから。」
「・・・・・・ぃ・・・や・・、」
「・・・それからね、もっともっとって思ったんだ。」
「いやぁ・・・・・・・・・・っっ」
「・・・・・カミュもそう思ってるんだろう?」
「ぃ、や・・・・・・っ、いやあぁぁ・・・・・・っ」
「・・・・よかった。皆同じなんだね。」
「・・・・・・・・・・・ぁっ」
「私だけかと思って、苦しんだんだよ・・・・」
「・・・・・・・、」
揺すられ続けて、中を擦られる卑猥な音が耳に届いて、段々何も考えられなくなる。
サガは、何と言った?
アイオロスが・・・・・・・・・・?
「・・・・・・中に出していいかい?」
これも、毎回言われること。
そして、うなづくまで懇願が続くのだ。
「カミュが受け入れてくれるから、私はこうして存在できるんだよ・・・・・・」
「・・・・・・・・ぁ、」
「カミュ・・・・」
「・・・・・・・カミュ」
「カミュ」
耳元の声は懐かしい。
この人はいつも、自分を抱きしめて頭を撫でて、こうして名前を読んで大丈夫だよと言ってくれた。
だが、この人は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
細い悲鳴が、長く尾を引いて。
背を反らせたカミュは、次にそのままシーツに沈み込んだ。
薄れていく意識の中で。
誰かの声が聞こえた気がする。
「・・・・・こちらの立場も、やっぱり罪悪感を感じるんだね・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・君もそうだったかい?アイオロス・・・・・・・・・・・」
2007/12/21
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